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労災は本人に責任があると減額?|「重大な過失」による支給制限

自動車事故では、「過失割合」という考え方があります。事故について自分にも過失があれば、その割合によって相手に請求できる損害賠償額が変わります。

自賠責保険にも、被害者に重大な過失がある場合の減額があります。ただし、自賠責保険は被害者保護の考え方から、被害者の過失が7割未満であれば減額されません。7割以上の場合には、過失の程度に応じた減額が行われます。

参考:自賠責保険・共済ポータルサイト

これを知っていると、

「自分に不注意があったから、労災も減額されるのでは?」

と心配になります。

労災保険は、少し考え方が違います。

本人に通常の過失があるというだけで、労災保険給付を減額する仕組みはありません。

ただし、事故の発生を意図した故意がある場合には保険給付は行われません。また、故意の犯罪行為や重大な過失に該当する場合には、一定の保険給付について支給制限が行われます。

基本的な考え方を整理すると、

通常の過失 → 減額なし
故意の犯罪行為・重大な過失 → 一定の給付を30%減額
事故の発生を意図した故意 → 給付なし

となります。

つまり、「本人にも少し落ち度があった」ことだけで、給付が減らされるわけではありません。

この記事では、労災保険の支給制限について、どのようなルールになっているのかを整理します。

目次

労災保険の「支給制限」とは

労災保険法12条の2の2では、被災した労働者本人の行為によって保険給付が制限される場合を定めています。

支給制限には、次の3つの場合があります。

第1項 故意に事故を生じさせた場合

第2項前段 故意の犯罪行為または重大な過失によって事故を生じさせた場合

第2項後段 正当な理由なく療養の指示に従わず、傷病を悪化させたり、回復を妨げたりした場合

法律上、第1項では「保険給付を行わない」、第2項では「保険給付の全部又は一部を行わないことができる」と規定されています。厚生労働省

このうち、事故について「本人にも責任があった」という場面で問題になるのが、主に第2項前段の「故意の犯罪行為または重大な過失」です。

以下では、平成23年8月17日基発0817第1号で改正された「労災保険給付事務取扱手引」を中心に、実際の取扱いを見ていきます。

故意に事故を起こした場合

まず、事故そのものを故意に起こした場合です。

給付事務取扱手引では、第1項は、負傷、疾病、障害、死亡またはその直接の原因となった事故について、その発生を意図した故意がある場合に適用するとしています。

また、この規定について「業務上とならない事故について確認的に定めたもの」と整理されています。

ただし、結果の発生を認容していたとしても、業務との因果関係が認められる事故については、第1項を適用しないとされています。


したがって、ここでいう「故意」は、単に「危ないと分かっていた」「不注意だった」という意味ではありません。

事故の発生そのものを意図した場合についてのルールです。

「故意」と「故意の犯罪行為」は違う

少し分かりにくいのが、第1項の「故意」と、第2項の「故意の犯罪行為」の違いです。

第1項は、事故などの結果そのものについて故意がある場合です。

これに対して、第2項の「故意の犯罪行為」は、事故そのものを意図していたという意味ではありません。

事故の原因となった犯罪行為を故意に行ったという場合です。

そのような行為による事故であっても、業務や通勤との関係が認められる場合があります。

そのため、事故そのものを意図した第1項の「故意」と、第2項の「故意の犯罪行為」は分けて考える必要があります。

故意の犯罪行為や重大な過失があった場合

給付事務取扱手引では、第2項前段について、

事故発生の直接の原因となった行為が、労働基準法、鉱山保安法、道路交通法などの危害防止に関する規定で、罰則が付されているものに違反すると認められる場合

に適用するとしています。

事故について本人に落ち度があったとしても、それだけで直ちに支給制限になるわけではありません。

給付事務取扱手引では、事故の直接原因となった行為と、危害防止のための罰則付き法令との関係を基準として示しています。

個々の事故がこの基準に該当するかどうかは、その事故の事実関係と関係する法令を確認して判断することになります。

重大な過失などがあると30%減額される

第2項前段による支給制限の対象として、給付事務取扱手引では次の給付を挙げています。

  • その傷病に係る休業(補償)給付
  • 療養開始後3年を経過する月までの傷病(補償)年金
  • 障害(補償)給付(再発に係るものを除く)

そして、支給制限の率は、

保険給付の都度、所定給付額の30%

とされています。

本来支給される額の30%が制限されるため、対象となった給付については、本来の給付額の70%が支給されることになります。

例えば、本来の給付額が10万円であれば、3万円が支給制限され、7万円が支給されるという考え方です。

一方、療養(補償)給付や遺族(補償)給付は、この支給制限の対象として列挙されていません。

いつまで減額されるのか

支給制限の期間についてもルールがあります。

休業(補償)給付については、支給事由が存在する期間が対象になります。

傷病(補償)年金については、療養開始後3年を経過する日の属する月までの分が対象です。

また、障害(補償)年金については、障害の原因となった傷病について療養を開始した日の翌日から起算して3年以内で、支給事由が存在する期間に限って支給制限されます。

したがって、障害年金を長期間受給する場合でも、その全期間について30%減額され続けるという仕組みではありません。

療養の指示に従わなかった場合にも支給制限がある

事故を起こしたときの行為とは別に、治療中の行為によって支給制限を受ける場合もあります。

労災保険法12条の2の2第2項では、正当な理由なく療養に関する指示に従わなかった場合についても規定しています。参考:労働者災害補償保険法

ただし、医師の指示に一度従わなかったというだけで、直ちに支給制限されるわけではありません。

給付事務取扱手引では、

  • 医療機関または労働基準監督署長から具体的な療養の指示があった
  • その指示に従わなかったことについて正当な理由がない
  • 指示に従わなかったため、傷病を悪化させたり回復を妨げたりしたことが医学上明らかである

という場合に適用するとしています。

この場合には、休業(補償)給付や傷病(補償)年金について、別に定められた方法で支給制限が行われます。

特別支給金にも支給制限がある

労災保険では、保険給付とは別に、休業特別支給金などの特別支給金が支給される場合があります。

特別支給金についても、重大な過失等による支給制限は、労災保険法12条の2の2による保険給付の支給制限に準じて取り扱うこととされています。

そのため、「保険給付が30%減額されても、特別支給金はそのまま支給される」と単純に考えることはできません。

普通に仕事をしていて事故に遭った場合

ここまで支給制限について説明してきましたが、一番大切なのは、本人に少し不注意があったというだけで労災保険給付が減額されるわけではないということです。

労災保険は、自動車事故の損害賠償のように、本人の過失を10%、20%、30%と評価して、その割合に応じて給付額を減らす制度ではありません。

  • 事故の発生を意図したわけではない。
  • 事故の直接原因となるような危害防止法令への違反もない。
  • 通常どおり仕事をしていて、仕事中や通勤中に災害に遭った。

このような場合には、本人に多少の不注意があったとしても、本人の過失を理由とする支給制限を過度に心配する必要はないでしょう。

一方、法令に違反する行為などが事故の原因となった場合には、何をしたのか、その行為にどのような法令が適用されるのか、その行為が事故の直接原因となったのかなど、個別の事実関係を確認する必要があります。

支給制限の具体的な事例

どのような場合に「故意の犯罪行為」や「重大な過失」として支給制限が問題になるのかについては、厚生労働省の資料でも具体例が示されています。

厚生労働省の「複数就業者に係る労災保険給付等について」の検討会資料では、故意の犯罪行為や重大な過失の例として、飲酒運転をして事故を起こした場合や、スピード違反が原因となって事故を起こした場合が挙げられています。

また、通勤災害について定めた昭和48年11月22日基発第644号では、飲酒運転などについて、必ずしも通勤そのものが否定されるとは限らない一方、事情によっては給付の支給制限が行われることがあるとされています。

このように、交通ルールに違反したというだけで一律に判断するのではなく、まず通勤災害に該当するかを確認し、そのうえで、違反行為の内容や事故との関係から支給制限の対象になるかを検討することになります。

具体的な事故について支給制限の可能性を検討する場合には、労災保険法第12条の2の2や給付事務取扱手引とあわせて、こうした行政通達や行政解釈も確認する必要があります。

参考:厚生労働省「第4回 複数就業者に係る労災保険給付等について」
参考:厚生労働省「労働者災害補償保険法の一部を改正する法律等の施行について」(昭和48年11月22日 基発第644号)

まとめ

労災事故について本人にも原因があったからといって、過失の割合に応じて給付額が減るわけではありません。

基本的な考え方は、

通常の過失 → 原則として支給制限なし
故意の犯罪行為・重大な過失 → 支給制限の対象
事故の発生を意図した故意 → 給付なし

です。

また、治療を受けている途中で、正当な理由なく療養の指示に従わず、傷病を悪化させたり回復を妨げたりした場合にも支給制限があります。

支給制限には法律や通達などによるルールがあります。

事故について本人にも多少の不注意があったというだけで、直ちに給付が減額されるものではありません。

故意に事故を起こしたわけではなく、定められたルールに従って通常どおり仕事をしているのであれば、一般には労災保険の支給制限を過度に心配する必要はありません。

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この記事を書いた人

【仕事は学び 仕事を遊ぶ 自由に働く】
やりたいことを、やりたいときに、やりたいように。

IT開発や品質管理の経験を経て、
「技術から人へ」とシフトしキャリア支援へ活動を展開。
現在は労災や働き方支援にも取り組んでいます。

技術・人・制度の視点から、
仕事やキャリアの悩みどころを整理しています。
人の問題に見えることを、構造として捉えたい、という視点で書いています。


資格
・2級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)
・技術士(総合技術監理部門/情報工学部門)


👉 詳しいプロフィールはこちら
https://yutori.org/hrskad

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