仕事中や通勤中の事故で労災を請求したら、「第三者行為災害届を提出してください」と言われた。
「第三者行為災害って何?」
そう思う人も多いのではないでしょうか。
第三者行為災害とは、第三者の行為などによって起きた労災事故で、その第三者が被災労働者などに対して損害賠償義務を負うものです。
「第三者行為災害」と言われても難しく考える必要はありません。結論から言うと、第三者行為災害であっても、仕事中や通勤中の事故として労災の要件を満たしていれば、労災保険給付の対象になります。
ただ、ここで新たな疑問が出てきます。
例えば、交通事故なら、労災保険だけでなく相手方の自賠責保険や任意保険も関係します。両方から受け取れるのでしょうか。
自分にも過失がある場合はどうなるのか。ひき逃げなどで相手が分からなくても労災を使えるのか。仕事中や通勤中に暴行を受けた場合も第三者行為災害になるのか。
第三者行為災害では、労災保険給付と第三者からの損害賠償が重なるため、同じ損害について調整する仕組みがあります。
そのため、通常の労災請求に加えて、第三者行為災害届などの手続きが必要になります。
この記事では、第三者行為災害の仕組み、損害賠償との関係、必要な手続き、示談するときの注意点まで順番に解説します。
第三者行為災害とは
第三者行為災害とは、第三者の行為などによって労災事故が起き、その第三者が被災労働者や遺族に対して損害賠償義務を負うものをいいます。
ここでいう第三者とは、その労災保険関係の当事者である政府、事業主、被災労働者以外の人や会社などです。
ポイントは、単に「事故の相手がいる」だけでは第三者行為災害にはならないことです。
第三者に民法などに基づく損害賠償責任があることが必要です。
例えば、通勤途中に相手の車に追突されて負傷した場合は、相手方に損害賠償責任が生じるため、第三者行為災害となります。
一方、自分だけで起こした自損事故は、損害賠償義務を負う第三者がいないため、第三者行為災害には当たりません。
ただし、自損事故は第三者行為災害には当たりませんが、労災にならないわけではありません。労災としての要件を満たせば、労災保険給付の対象になります。
第三者行為災害になる主なケース
第三者行為災害というと交通事故を思い浮かべるかもしれませんが、交通事故だけではありません。
仕事中や通勤中に、第三者の行為によってケガをした場合などが対象になります。
主なケースを見てみましょう。
交通事故
仕事中の移動や通勤中に、車やバイク、自転車などとの交通事故でケガをした場合です。
自損事故ではなく、事故の相手方に損害賠償責任がある場合は、第三者行為災害になります。
暴行・傷害
仕事中だけでなく、通勤中のトラブルなどで他人から暴力を振るわれ、ケガをした場合も第三者行為災害になることがあります。
相手の不注意などによる事故
仕事中に、他人の不注意などによってケガをさせられた場合です。
交通事故に限らず、第三者に損害賠償責任が生じる事故であれば、第三者行為災害になることがあります。
動物による事故
他人が飼っている犬などにかまれたり、猫に引っかかれたりしてケガをした場合です。
例えば、仕事で訪問した家の犬にかまれた場合や、通勤中に散歩中の犬にかまれた場合などが考えられます。
落下物などによる事故
仕事中や通勤中の移動の際に、建設現場から落下した物に当たってケガをした場合などです。
この場合、落下物を適切に管理すべき人や会社などに損害賠償責任があれば、第三者行為災害になることがあります。
このように、第三者行為災害は交通事故に限りません。
「仕事中や通勤中の事故で、損害賠償責任を負う第三者がいるか」が、第三者行為災害に当たるかを考えるポイントになります。
自分にも過失があっても労災は使える
労災保険は、原則として自分に過失があっても支給されます。
例えば交通事故では、相手方だけでなく、被災労働者にも不注意があったと判断されることがあります。
この場合、「労災保険は使えるのか」「支給額は減額されるのか」は気になるところです。
結論として、自分にも過失があるというだけで、労災保険が使えなくなるわけではありません。
また、通常の過失があるというだけで、民事上の過失割合に応じて労災保険給付が減額されるわけでもありません。
仕事中や通勤中の事故として労災の要件を満たしていれば、労災保険給付の対象になります。
過失割合で減額されるのは民事上の損害賠償
一方、交通事故などの民事上の損害賠償では、被災労働者にも過失があれば、その過失割合に応じて相手方から受け取る損害賠償額が調整されることがあります。
例えば、被災労働者の過失割合が30%とされた場合、相手方に請求できる損害賠償額は、その過失を考慮して減額されることがあります。
しかし、これは民事上の損害賠償の話です。
労災保険では、被災労働者の過失割合が30%だからといって、休業(補償)等給付などが一律に30%減額されるわけではありません。
過失と故意は別の問題
ただし、通常の不注意による「過失」と、自分で故意に事故を起こした場合は別です。
労災保険法では、労働者が故意に負傷などを生じさせた場合には、保険給付を行わないと定めています。
また、故意の犯罪行為や重大な過失によって事故などを生じさせた場合には、保険給付の全部または一部が制限されることがあります。
したがって、「自分にも不注意があった」という場合と、故意や重大な過失がある場合は分けて考える必要があります。
なぜ第三者行為災害では特別な手続きが必要なのか
第三者行為災害でも、労災の要件を満たせば、被災労働者は労災保険から給付を受けることができます。
一方、その事故について損害賠償責任を負う第三者がいる場合は、本来、その第三者が自分の責任に応じて損害を賠償することになります。
例えば、通勤中に電車内で暴行を受けてケガをした場合、本来、治療費などは加害者が損害賠償として負担すべきものです。
ただし、その事故が通勤災害として認められれば、被災労働者は労災保険から給付を受けることができます。
この場合、政府は労災保険から給付した価額の限度で、被災労働者が加害者に対して持っている損害賠償請求権を取得し、加害者に請求します。
交通事故の場合も考え方は同じです。
ただし、交通事故では、加害者本人ではなく、加害者が加入している自賠責保険や任意保険から損害賠償が支払われることがあります。
そこで、労災保険では、事故の状況、相手方、保険会社、すでに支払われた損害賠償の内容などを確認する必要があります。
そのために、通常の労災請求に加えて、第三者行為災害届や念書(兼同意書)、交通事故証明書などの書類が必要になります。
労災を先に使うと「求償」、加害者側から先に受け取ると「控除」
第三者行為災害では、労災保険と加害者側からの損害賠償の両方が関係します。
しかし、同じ治療費や休業による損失について、労災保険と加害者側の双方から重ねて補償を受けることはできません。
労災保険では、同じ損害が二重に補償されないようにするとともに、本来、損害賠償責任を負う第三者が負担すべき部分を調整します。
調整方法は、原則として次の二つです。
- 労災保険から先に給付を受ける → 求償
- 加害者や保険会社から先に損害賠償を受ける → 控除
労災を先に使った場合は「求償」
まず労災保険から給付を受けた場合、政府が加害者側へ請求します。
これを「求償」といいます。
つまり、労災保険を先に使う場合、被災労働者が自分で加害者に治療費などを請求しなくても、労災保険から給付を受けることができます。
政府は労災保険から給付した価額の限度で、被災労働者が第三者に対して持っている損害賠償請求権を取得します。
そして、損害賠償責任を負う第三者や、その保険会社などへ請求します。
流れにすると、次のようになります。
労災保険から被災労働者へ給付
↓
政府が、給付した価額の限度で損害賠償請求権を取得
↓
政府が第三者や保険会社へ請求
被災労働者が持っている損害賠償請求権のすべてが政府へ移るわけではありません。
政府が取得するのは、あくまで労災保険から給付した価額の限度です。
なお、加害者側への求償そのものは政府が行いますが、被災労働者は第三者行為災害届などを提出し、事故の状況や相手方の情報を届け出る必要があります。
加害者側から先に支払いを受けた場合は「控除」
反対に、労災保険から給付を受ける前に、加害者やその保険会社から治療費や休業損害などを受け取ることもあります。
この場合、すでに支払われた損害と同じ内容については、労災保険から重ねて給付されません。
これを「控除」といいます。
例えば、加害者側から治療費の支払いを受けていれば、その治療費に対応する労災保険給付が調整されます。
ただし、加害者側から受け取った金額がすべて労災保険から差し引かれるわけではありません。
調整されるのは、労災保険給付と同一の事由に当たるものです。
例えば、慰謝料や車両の修理費には、それに対応する労災保険給付がありません。そのため、原則として支給調整の対象にはなりません。
つまり、交通事故で加害者側から車両の修理費を受け取ったからといって、そのことを理由に労災の治療に関する給付が減るわけではありません。
加害者側からすでに支払いを受けている場合は、何について、いくら受け取ったのかを労働基準監督署へ伝えることが大切です。
特別支給金は支給調整の対象外
休業特別支給金などの特別支給金は、第三者からの損害賠償との支給調整の対象にはなりません。
第三者行為災害届と必要書類
第三者行為災害で労災保険給付を請求するときは、通常の労災保険給付請求書に加えて、第三者行為災害届を提出します。
提出先は、被災労働者が所属する事業場を管轄する労働基準監督署です。
原則として、第三者行為災害届は、労災保険給付の請求より先に、または請求と同じ時期に提出します。
ただし、労災の請求書と第三者行為災害届は提出経路が異なる場合があります。第三者行為災害届を提出していなくても、労災の請求自体が直ちに止まるわけではありません。
事故の内容から第三者行為災害に当たると判断されれば、労働基準監督署から届の提出を求められることがあります。
その場合、必要書類がそろうまで手続きに時間がかかることがあります。
第三者行為災害届は、損害賠償との支給調整を行うために必要な書類です。正当な理由なく提出しない場合には、労災保険給付が一時差し止められることがあります。
そのため、第三者行為災害に当たる場合は、必要書類を早めに準備して提出しましょう。
主な書類は次のとおりです。
- 第三者行為災害届
- 念書(兼同意書)
交通事故の場合は、事故の状況に応じて次の書類も必要になります。
- 交通事故証明書の原本
- 交通事故証明書を提出できない場合の交通事故発生届
- すでに自賠責保険などから賠償金を受けている場合の支払証明書や保険金支払通知書
- その他、死亡事故など事故の内容に応じて必要となる書類
交通事故以外でも、公的機関の証明書などが得られる場合は、その書類を提出します。
事故の内容によって必要書類は変わります。必要な書類が分からない場合は、所轄の労働基準監督署に事故の状況を伝えて確認すると確実です。
第三者行為災害届と第三者行為災害報告書は別の書類
名称が似ていますが、「第三者行為災害届」と「第三者行為災害報告書」は別の書類です。
第三者行為災害届は、労災保険給付を受けようとする被災労働者や遺族が提出する書類です。
一方、第三者行為災害報告書は、事故を発生させた第三者に対して、労働基準監督署が提出を求めることがある書類です。
第三者に関する事項、事故の状況、損害賠償金の支払状況などを確認するために使われます。
相手方が不明な場合
ひき逃げなどで相手方が分からない場合でも、事故が業務災害や通勤災害に当たれば、労災保険給付を請求できます。
相手方が分からないからといって、労災保険を使えないわけではありません。
厚生労働省の「第三者行為災害届を記載するに当たっての留意事項」では、不明な事項がある場合は、空欄のまま提出し、その旨を提出時に申し出ることとされています。
また、労働局や労働基準監督署によっては、相手方が後日判明した場合に報告するための誓約書を用意している例があります。
例えば、横浜南労働基準監督署の参考様式では、現在は相手方が不明でも、後日判明したときに経過書や念書を添えて届け出ることとされています。
滋賀労働局でも、「誓約書(相手不明時の判明報告)」が公開されています。
ただし、こうした誓約書は各労働局や労働基準監督署が用意している様式であり、全国一律の様式とは限りません。
また、相手方が不明な場合の念書(兼同意書)の第三者欄については、全国共通で「必ず空欄にする」「必ず『不明』と記載する」といった取扱いまでは確認できません。
実際には、労働基準監督署から「不明」と記載するよう案内される場合もあります。
そのため、相手方が不明な場合は、分からない事項を無理に記載せず、管轄の労働基準監督署に事故の状況を伝えて、必要な書類や記載方法を確認するのが確実です。
交通事故では自賠責と労災のどちらを使うか
交通事故では、自賠責保険などから先に支払いを受ける「自賠先行」と、労災保険から先に給付を受ける「労災先行」があります。
ここで注意したいのは、自賠責と労災のどちらか一方しか使えないという意味ではないことです。
同じ損害について二重に補償を受けることはできませんが、それぞれ補償する範囲には違いがあります。
例えば、自賠責保険の傷害による損害には、治療関係費や休業損害のほか、慰謝料なども含まれます。一方、労災保険には慰謝料に当たる給付はありません。
反対に、労災保険には休業特別支給金などの特別支給金があり、これは第三者からの損害賠償との支給調整の対象になりません。
そのため、労災先行を選んだからといって、自賠責保険から一切の支払いを受けられなくなるわけではありません。労災保険給付と同一の事由に当たらない慰謝料などについては、自賠責保険へ請求することができます。
また、自賠責保険の傷害による損害には、被害者1人につき120万円という支払限度額があります。この限度額には、治療関係費、休業損害、慰謝料などが含まれます。
このため、「自賠責と労災のどちらが得か」と単純に決めることはできません。
どちらから先に給付を受けるかは、事故の内容、治療期間、休業の状況、相手方の保険や支払いの状況などを考えて決める必要があります。
自賠先行と労災先行にはそれぞれ特徴があります。具体的な選び方については、別の記事で詳しく解説します。
示談するときは注意
第三者行為災害で示談をするときは、内容を十分に確認する必要があります。
「示談をしたら、必ず労災保険給付が受けられなくなる」ということではありません。
ただし、すべての損害について真正な全部示談が成立し、示談額以外の損害賠償請求権を放棄した場合は、原則として、示談成立後の労災保険給付は行われません。
また、示談の効力が、すでに労災保険給付を受けた期間まで遡る内容になっていると、すでに受け取った給付が回収される場合もあります。
示談の影響は、次のような点によって変わります。
- 示談の対象となる損害
- 損害賠償請求権を放棄する範囲
- 示談の効力が生じる時期
- 労災保険へ別途請求する予定の治療費や休業損害が明示されているか
事故から長期間が経過していても、障害年金などの労災給付を受けている場合は注意が必要です。
「もう何年も経ったから」と区切りをつけるつもりで示談した結果、将来の請求権まで放棄する全部示談となり、その後の労災給付に影響することがあります。
示談を行う前に、必ず労働局または労働基準監督署へ連絡してください。厚生労働省も、示談前に連絡するよう案内しています。
示談をしたときは、速やかに示談書の写しを提出します。
まとめ
第三者行為災害とは、第三者の行為などによって起きた労災事故で、その第三者が被災労働者などに対して損害賠償義務を負うものです。
交通事故だけでなく、暴行や他人の不注意による事故、動物による事故なども第三者行為災害になることがあります。
第三者行為災害でも、仕事中や通勤中の事故で労災の要件を満たしていれば、労災保険給付の対象になります。
ただし、第三者からの損害賠償と労災保険給付が重なるため、同じ損害について二重に補償されないよう、求償や控除による調整が行われます。
そのため、通常の労災請求に加えて、第三者行為災害届や念書(兼同意書)などの提出が必要になります。
また、自分にも過失があるからといって、それだけで労災保険給付が受けられなくなるわけではありません。
一方で、示談の内容によっては、その後の労災保険給付に影響することがあります。特に、将来の損害賠償請求権まで放棄する全部示談には注意が必要です。
第三者行為災害では、「相手がいる事故だから労災は使えない」と考えず、まず労災の対象になるかを確認し、損害賠償との調整や必要な手続きを進めることが大切です。


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