労働保険の保険関係が成立したときに「保険関係成立届」を提出します。
ただ、実際に書こうとすると、意外と迷います。
「1週間アルバイトを雇った。成立届は必要なの?」
という、初めて成立届を出す時の質問から始まり、
「営業所を作ったけど、成立届が必要?」
「一元適用と二元適用では、どう違う?」
「建設工事の場合は、どこに提出する?」
「住所は、会社の本店所在地と事業所所在地のどちらを書く?」
「保険関係成立年月日は、会社を設立した日? それとも労働者を雇った日?」
「単独有期事業と一括有期事業では、書き方がどう変わる?」
などと、疑問は尽きません。
この記事では、こうした保険関係成立届を実際に作成するときに迷いやすいポイントを、一元適用・二元適用・単独有期・一括有期などのタイプ別に整理します。
提出先や提出期限、記入するときに注意したい項目を確認しながら、具体的にはどうすればよいのかを見ていきましょう。
なお、各欄の具体的な記入例や最新の様式については、厚生労働省・労働局の公式資料をご案内します。
1 保険関係成立届はいつ提出する?
保険関係成立届は、労働保険の保険関係が成立したときに提出する書類です。
一般的には、初めて労働者を雇用して、労働保険の適用事業となったときに提出します。法人を設立しただけでは提出する必要はなく、労働者を使用した時点で、法律上当然に保険関係が成立します。
ただし、建設業などの有期事業では、工事を開始したときに保険関係が成立するなど、事業の種類によって成立するタイミングが異なります。
なお、労働保険の保険関係がいつ成立するのか、その仕組みについて詳しく知りたい方は、「労働保険(労災):成立から消滅までの手続き」をご覧ください。
提出期限は?
保険関係成立届は、保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内に提出しなければなりません。
また、保険関係成立届とあわせて提出する概算保険料申告書は、提出期限が異なり、保険関係成立日の翌日から起算して50日以内、ただし、単独有期事業は20日以内です。提出漏れを防ぐためにも、成立届とあわせて準備するのがおすすめです。
保険関係成立年月日はいつになる?
成立届を作成するときに最も迷いやすい項目の一つが、「保険関係成立年月日」です。
会社の設立日を書くのか、それとも初めて労働者を雇用した日を書くのか、建設工事ではいつを成立日とするのかなど、事業の内容によって考え方が異なります。
この点は記入を間違えやすいため、第4章「記入上の注意をわかりやすく解説」で詳しく解説します。
2 まず確認|どのタイプの成立届?
保険関係成立届の提出方法は、事業の種類により違います。
事業の種類によって、手続きの方法が異なるため、まずは自分の事業がどのタイプに該当するか確認します。ここでは、成立届の手続きに必要な範囲だけを説明します。制度全体については、厚生労働省の「事業主のみなさまへ 労働保険の成立手続はおすみですか」を参考にしてください。
労働保険では、事業は「一元適用事業」「二元適用事業」に区分されます。
さらに建設業など期間が決まっている事業は「有期事業」として取り扱われます。
また、複数の事業所をまとめて管理する「一括」という制度があります。
以下、それぞれのタイプについて説明します。
一元適用事業
一般的な会社のほとんどが該当します。
製造業、小売業、飲食業、サービス業などは、一元適用事業です。
労災保険と雇用保険を一つの保険関係として取り扱うため、成立届も一本で手続きを行います。
労災保険と雇用保険の保険料の申告・納付等を一元的に取り扱うので、一元適用事業といいます。
本社、支店、営業所などがそれぞれ独立した事業として取り扱われる場合は、原則として事業ごとに保険関係を成立させます。本社、支店、営業所などは、それぞれが別々の事業所となるのが通常です。
事業所ごとに、それぞれを管轄する労働基準監督署などで手続けをするのは大変です。そこで、同じ事業主で事業の種類が同じなど、一定の要件を満たせば、一つにまとめることができます。これを「継続事業の一括」(継続一括)といいます。
二元適用事業
建設業や農林水産業など、一部の事業は二元適用事業です。
労災保険と雇用保険を別々の保険関係として取り扱うため、それぞれの手続きが必要になります。 建設工事では、労災保険は原則として工事ごとに元請が手続きをします。一方、雇用保険は労働者を雇用する事業所について成立します。このように、労災保険と雇用保険を別個の保険関係として取り扱うため、二元適用事業といいます。
単独有期事業
二元適用事業の建設工事など、一つの工事ごとに保険関係が成立する事業です。
工事現場を管轄する労働基準監督署へ成立届を提出し、事業の終了予定日も決まっています。
一括有期事業
二元適用事業で、一定の要件を満たす小規模な建設工事などは、複数の工事をまとめて一つの保険関係として取り扱います。
この場合は、一括事務所を管轄する労働基準監督署へ成立届を提出します。単独有期事業と異なり、事業終了予定日は記載しません。
一括有期事業としての保険関係が成立すると、その後は対象となる工事ごとに成立届を提出する必要はありません。
どのタイプか迷ったら
| 事業の内容 | 該当するタイプ |
|---|---|
| 一般的な会社(製造業・小売業・サービス業など) | 一元適用事業 |
| 建設業・農林水産業など | 二元適用事業 |
| 二元適用事業で、一つの建設工事ごとに手続きする | 単独有期事業 |
| 二元適用事業で、小規模工事をまとめて手続きする | 一括有期事業 |
3 タイプ別|成立届はこう提出する
事業の種類によって、成立届の提出方法は異なります。
ここでは、それぞれの事業について、「どこへ提出するのか」「どのような点が違うのか」を説明します。
一元適用事業の場合
一般的な会社のほとんどが該当します。
労災保険と雇用保険を一つの保険関係として取り扱うため、保険関係成立届は1件として提出します。
提出先
- 事業所の所在地を管轄する労働基準監督署
提出する主な書類
- 保険関係成立届
- 概算保険料申告書
二元適用事業の場合
建設業や農林水産業などは、労災保険と雇用保険を別々の保険関係として取り扱います。
そのため、労災保険と雇用保険の成立届をそれぞれ提出します。
労災保険の提出先
- 労働基準監督署
雇用保険の提出先
- 公共職業安定所(ハローワーク)
建設業では、工事ごとの労災保険と、事業所単位の雇用保険を別々に管理するため、二元適用事業となります。
単独有期事業の場合
建設工事など、一つの工事ごとに保険関係が成立する事業です。
例えば、東京タワーの建設工事を受注した場合、その工事について一つの保険関係が成立します。
提出先
- 工事現場を管轄する労働基準監督署
東京タワーの場合は、「東京都港区芝公園」にあるので、港区を管轄する「三田労働基準監督署」に提出します。
成立届の特徴
- 工事ごとに成立届を提出する
- 工事の開始日を記載する
- 工事の終了予定日も記載する
- 工事が終了すると、その保険関係も終了する
一括有期事業の場合
一定の要件を満たす小規模な建設工事などは、複数の工事をまとめて一つの保険関係として取り扱います。
例えば、千代田区霞が関にある建設会社が、各地で小規模な工事を継続して受注する場合、最初の工事を始めるときに保険関係が成立します。
提出先
- 一括事務所の所在地を管轄する労働基準監督署
たとえば、千代田区霞が関にある会社であれば、霞が関を管轄する中央労働基準監督署に提出します。
成立届の特徴
- 最初の対象工事で成立届を提出する
- 複数の工事をまとめて一つの保険関係として扱う
- 事業終了予定日は記載しない
単独有期事業と一括有期事業の違い
| 項目 | 単独有期事業 | 一括有期事業 |
|---|---|---|
| 保険関係 | 工事ごとに成立 | 複数の工事をまとめて成立 |
| 提出先 | 工事現場を管轄する労働基準監督署 | 一括する事務所を管轄する労働基準監督署 |
| 事業終了予定日 | 記載する | 記載しない |
4 記入上の注意をわかりやすく解説
保険関係成立届は、4枚つづりのノーカーボン様式になっています。
1~3枚目は提出用で、4枚目は「記入上の注意」です。
また、この届出書はOCR(光学文字読取装置)で読み取るため、赤枠内は黒色のボールペンを使用し、枠内に丁寧に記入します。
赤枠の部分は面積が大きく目立つため、重要な記入欄のように見えますが、内容としては黒色で印刷された欄に記入した内容を転記するための欄です。
赤枠にも実際に記入しますが、ここで新しい内容を書くわけではありません。
また、「※」印のある欄には記入しません。 この欄は、労働基準監督署の担当者が使用します。
この章では、厚生労働省・労働局が公開している「労働保険の成立手続はおすみですか」の「参考1記入例」と4枚目の「記入上の注意」をもとに、分かりにくい点や実務上のポイントを補足して解説します。
① 「継続事業の一括」の認可と「指定事業」
「記入上の注意」には、
「すでに継続事業の一括の認可を受けている事業主の場合は、当該一括に係る指定事業の所在地及び名称を記入すること。」
と書かれています。
通常、新しく労働保険に加入する会社は、この注意書きを気にする必要はありません。
これは、継続事業の一括(継続一括)の認可を受けている会社が、新しく被一括事業を追加するときの説明です。
継続事業の一括では、イメージとしてはすでに成立している事業所の一つを「親」とし、別の事業所を「子」としてぶら下げます。
親となる事業所を指定事業、子となる事業所を被一括事業といいます。
この注意書きは、新しく子となる事業所(被一括事業)の保険関係を成立させるときの手続きです。
そのため、①欄には親となる指定事業の所在地と名称を記入します。
なお、この注意書きに該当しない場合でも、すでに労働保険が成立している事業がある場合は、事業主名は既存の成立届と同じ表記にしておくことをおすすめします。
例えば、同じ会社が倉庫業と建設業を営んでいる場合、それぞれ別の労災保険関係が成立しますが、事業主名は統一した表記にしておく方が実務上管理しやすくなります。
⑤ 「加入済みの労働保険」
この欄は、すでに労災保険または雇用保険のどちらか一方だけ加入している場合に記入します。
具体的には、
- 労災保険には加入済みで、今回新たに雇用保険へ加入する場合
- 雇用保険には加入済みで、今回新たに労災保険へ加入する場合
に、該当する保険に印を付けます。
雇用保険を追加する場合
例えば、これまで雇用保険の加入要件を満たす従業員がいなかった事業所で、新たに雇用保険の加入要件を満たす正社員などを雇用した場合です。
労災保険を追加する場合
例えば、二元適用事業の本社で雇用保険だけ成立していたところ、従業員が建設現場などで作業を行うようになり、新たに労災保険の保険関係が成立した場合などがあります。
なお、本社で事務の仕事だけを行うのであれば、建設現場とは事業が異なるため、本社の事務部門と建設現場では、それぞれ別の労災保険関係として取り扱われます。
⑥ 保険関係成立年月日
保険関係成立年月日は、労災保険と雇用保険で考え方が異なります。
労災保険
初めて労働者を使用した日が保険関係成立年月日になります。
会社の設立日や開業日ではありません。
雇用保険
初めて雇用保険の被保険者となる労働者を雇用した日が保険関係成立年月日になります。
雇用保険の被保険者となるのは、原則として、
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上引き続き雇用される見込みがある
労働者です。
そのため、短時間勤務のアルバイトだけを雇用していて雇用保険の加入要件を満たす従業員がいなかった事業所で、新たに加入要件を満たす従業員を採用した場合は、その採用日が雇用保険の保険関係成立年月日になります。
⑪ 事業開始年月日
この欄は、任意加入事業の場合に記入する欄です。
通常は、労働者を初めて雇用すると労災保険が成立するので「保険関係成立届」を提出します。
しかし、例えば、農林水産業の一部で、個人経営かつ労働者が5人未満の場合などは、自動的には労災保険に加入せず、希望して手続きを行った場合だけ加入します。これを任意加入といいます。
記入するのは、実際に事業を開始した日です。通常は、開業日や会社が事業を開始した日になります。
任意加入は、労働局長の認可を受けた日から効力が生じます。しかし、この欄に記入するのは認可日や加入日ではなく、実際に事業を開始した日です。
⑫ 事業廃止等年月日
単独有期事業の場合に記入する欄です。
⑮ 発注者
単独有期事業の場合に記入する欄です。
⑰~⑳ OCR入力用欄
⑰~⑳欄は、OCR(光学文字読取装置)で読み取るための入力欄です。
通常は、②欄に記入した所在地・名称を転記します。
OCRで正しく読み取れるよう、黒色のボールペンで枠内に丁寧に記入します。
㉑ 保険関係成立年月日(OCR入力用)
㉑欄はOCR入力用の欄です。通常は、⑥欄に記入した今回成立させる保険関係の成立年月日を転記します。
㉗・㉘ 適用済み労働保険番号
この欄は、すでに同じ事業主で労働保険が成立している事業がある場合に、その労働保険番号を記入します。
一元適用事業の場合
すでに同じ事業主の他の事業で労働保険番号が付与されている場合は、その労働保険番号を記入します。
複数の事業がある場合は、主な2事業まで記入します。
二元適用事業の場合
二元適用事業では、労災保険の成立届には雇用保険側の労働保険番号を、雇用保険の成立届には労災保険側の労働保険番号を記入します。
複数の事業がある場合は、主な2事業まで記入します。
5 提出先で迷いやすいケース
通常の提出先は第3章で説明しました。ここでは、実務で提出先に迷いやすいケースを紹介します。
単独有期事業
建設工事などの単独有期事業では、工事現場を管轄する労働基準監督署へ提出します。
例えば、東京タワーの建設工事であれば、工事現場の所在地である東京都港区を管轄する三田労働基準監督署へ提出します。
継続事業の一括(継続一括)
新しく被一括事業となる事業所は、まず労働保険を成立させ、その後、被一括事業とする手続きを行います。
保険関係成立届は、新しく成立させる事業所の所在地を管轄する労働基準監督署へ提出します。
一括有期事業
一括有期事業では、最初の対象事業で保険関係が成立した後は、対象となる工事ごとに保険関係成立届を提出する必要はありません。
6 電子申請する場合
保険関係成立届は、e-Gov電子申請でも提出できます。
この記事では操作方法までは説明しません。
電子申請を行う場合は、厚生労働省が公開している「e-Gov電子申請利用マニュアルの紹介」の「労働保険保険関係成立届」をご利用ください。
7 成立届を提出した後は?
保険関係成立届を提出した後は、概算保険料申告書を提出し、保険料を納付します。
また、必要に応じて雇用保険適用事業所設置届や雇用保険被保険者資格取得届などの手続きを行います。
次は、「概算保険料申告書の書き方」をご覧ください。
まとめ
保険関係成立届は、事業の種類によって提出方法や記入内容が異なります。
まず自分の事業がどのタイプに当たるかを確認し、提出先や記入上の注意を確認したうえで手続きを進めましょう。
提出後は概算保険料申告書など、次の手続きも忘れずに行います。


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