一般に「概算保険料申告書」と呼ばれますが、正式には「概算・増加概算・確定保険料申告書」です。
名前が長いのは、この一枚の申告書を「概算保険料」「増加概算保険料」「確定保険料」など、複数の手続きに使用するためです。
この記事では、まず労働保険料の仕組みと、この申告書をどのようなときに使うのかを整理します。
そのうえで、実際の申告書の「記入に当たっての注意事項」に沿って、分かりにくいところを中心に解説します。
1.まず知っておきたい|労働保険料は「概算で払い、あとで精算する」
労働保険料は、原則として労働者に支払う賃金をもとに計算します。
しかし、これから1年間に支払う賃金の総額は、あらかじめ正確には分かりません。
従業員を新しく雇うこともあれば、退職することもあります。昇給や賞与によって賃金が増えることもあります。
そこで労働保険では、まず、これから支払う賃金総額を見込んで概算保険料を計算し、先に納付します。
これが「概算保険料」です。
そして期間が終わったら、実際に支払った賃金総額をもとに確定保険料を計算し、概算保険料との差額を精算します。
これが「確定保険料」です。
つまり、
概算で保険料を納付する ↓ 実際に支払った賃金が確定する ↓ 確定保険料を計算して精算する
という仕組みです。
この仕組みを知っておくと、「概算・増加概算・確定保険料申告書」という名前の意味も分かりやすくなります。
詳しい制度や保険料の計算方法については、厚生労働省の「労働保険料の申告・納付」を参考にしてください。
2.概算保険料申告書はいつ使う?
この申告書を使用する代表的な場面を確認しておきます。
初めて保険関係が成立したとき
労働者を雇用するなどして労働保険の保険関係が成立したときは、これから支払う賃金総額を見込んで概算保険料を計算し、申告・納付します。
年度の途中で賃金総額の見込額が大きく増えたとき
年度の中途において、賃金総額の見込額が当初の申告より2倍を超えて増加し、かつ、その賃金総額によった場合の概算保険料の額が申告済の概算保険料よりも13万円以上増加する場合は、増加額を増加概算保険料として申告・納付します。
年に一度の年度更新
年度更新では、前年度に実際に支払った賃金総額から確定保険料を計算します。
すでに申告していた概算保険料と精算するとともに、新しい年度の概算保険料を申告します。
つまり年度更新では、
前年度の保険料を確定・精算する
ことと、
新年度の概算保険料を申告する
ことを一度に行います。
事業を廃止するなど、保険関係が消滅したとき
事業を廃止するなどして保険関係が消滅した場合には、実際に支払った賃金総額をもとに確定保険料を計算し、概算保険料との差額を精算します。
3.申告書は3枚1組になっている
「概算・増加概算・確定保険料申告書」は、ノーカーボンの3枚1組になっています。
記入するときは、3枚を切り離さずに記入します。
また、3枚目の裏面には「記入に当たっての注意事項」があります。
まずは、この注意事項を確認しながら記入していきます。
この記事では、注意事項を読めば分かるところをすべて繰り返すのではなく、特に分かりにくいところを補足していきます。
4.記入するときに注意したいところ
基本的な書き方は、厚生労働省・労働局が公開しているパンフレット「事業主のみなさまへ 労働保険の成立手続はおすみですか」の「参考1(記入例)」と申告書3枚目の裏面の「記入に当たっての注意事項」に詳しく掲載されています。
この記事では、その内容を繰り返すのではなく、実際に記入するときに迷いやすい点や、実務上のポイントを中心に補足して解説します。
4-1 保険関係が成立したとき
初めて労働者を雇い、労働保険の保険関係が成立したときは、その年度の概算保険料を申告・納付します。
概算保険料は、保険関係が成立した日から、その年度の3月31日までに支払う賃金総額の見込額をもとに計算します。
新しく保険関係が成立した場合、概算保険料の申告・納付期限は、保険関係が成立した日から50日以内です。
基本的な書き方は、記入例のとおりです。
ここでは、特に迷いやすいところと、提出が遅れた場合について説明します。
④ 常時使用労働者数
ここには、常時使用する労働者の人数を記入します。
ただし、概算保険料はこれから支払う賃金総額の「見込額」をもとに計算するものです。
これから新しく人を雇うかもしれませんし、反対に退職する人が出るかもしれません。そのため、この段階で将来の人数を完全に正確に予測することはできません。
申告する時点で分かっている状況から、自分で最も正しいと思う人数を記入してください。
提出が遅れてしまった場合
提出期限を過ぎてしまったことに気づいたら、できるだけ早く提出してください。
労働保険は、成立届や概算保険料申告書を提出して初めて保険が始まるわけではありません。原則として、労働者を使用する事業となった時点で法律上、保険関係が成立しています。
そのため、手続きが遅れている間に労働災害が発生した場合でも、労働者は労災保険の給付を受けることができます。
一方、事業主が成立手続きを行っていなかった場合には、さかのぼって保険料や追徴金を徴収されることがあります。
さらに、成立手続きを行うよう行政から指導を受けたにもかかわらず手続きを行わなかった場合や、長期間手続きを行わないまま労働災害が発生した場合などには、労災保険から支給された保険給付の一部または全部について、事業主が費用徴収を受けることがあります。
期限を少し過ぎてしまったからといって、そのままにしておく方が問題です。
間違いや失念に気づいた場合は、できるだけ早く手続きをしてください。
3月31日をまたいでしまった場合
提出が遅れ、保険関係が成立した年度を越えてしまった場合は、少し書き方が変わります。
例えば、1月1日に初めて労働者を雇い、保険関係が成立したとします。
本来であれば、1月1日から3月31日までに支払う予定の賃金総額を見込んで概算保険料を申告します。
ところが、手続きをしないまま4月1日を過ぎてしまった場合、1月1日から3月31日までの賃金は、すでに実績が確定しています。
そのため、
1月1日~3月31日 → 実際に支払った賃金をもとに確定保険料を計算
4月1日~翌年3月31日 → これから支払う賃金を見込んで概算保険料を計算
という二つの処理が必要になります。
前年度分については、人数も賃金総額もすでに実績が分かっていますので、実際の数字を使って正確に記入します。
考え方は年度更新と同じです。確定保険料の部分については、後ほど説明する年度更新の書き方も参考にしてください。
新年度の概算保険料については、通常の保険関係成立時と同じように、これから支払う賃金総額を見込んで記入します。
4-2 賃金総額の見込額が大きく増えたとき(増加概算保険料)
年度の途中で事業規模が大きくなり、賃金総額の見込額が当初の見込額より大幅に増えた場合は、増加概算保険料を申告・納付します。
この手続きが必要になるのは、賃金総額の見込額が当初の見込額の2倍を超え、増加する概算保険料が13万円以上となる場合です。
通常の保険関係成立や年度更新では、この手続きは行いません。
② 増加年月日
増加概算保険料を申告する場合だけ、「② 増加年月日」の欄に記入します。
賃金総額の見込額が大きく増え、増加概算保険料を申告することになった年月日を記入してください。
それ以外の場合は、「② 増加年月日」の欄は空欄のままで構いません。
4-3 保険料を確定するとき
保険料は、労働保険番号ごとに管理されています。
そのため、現在使用している労働保険番号を使わなくなるときは、その時点までの保険料を計算し、確定保険料として精算します。
例えば、次のような場合です。
- 事業を廃止するとき
- 労働者を使用しなくなり、保険関係を廃止するとき
- 労働保険事務組合へ事務を委託するとき
- 労働保険事務組合を変更するとき
このような場合は、それまで使用していた労働保険番号で保険料を確定し、精算した後、新しい手続きへ移ります。
なお、一時的に労働者がいなくなっただけで、近いうちに再び労働者を雇う予定がある場合は、すぐに保険関係を廃止しない方が手続きが簡単なこともあります。保険関係を廃止すると、再び労働者を雇ったときに、改めて保険関係成立届などの手続きが必要になるためです。
この場合、その年度を通して労働者を使用せず、賃金の支払いもなかったときは、保険関係を継続したまま、年度更新で労働者数0人、賃金総額0円として申告します。
③・㉔ 事業廃止等年月日
保険料を確定する場合は、「③・㉔ 事業廃止等年月日」の欄に、事業を廃止した日や、現在の労働保険番号を使わなくなる日を記入します。
保険関係成立時や年度更新など、それ以外の場合は、「③・㉔ 事業廃止等年月日」の欄は空欄のままで構いません。
労働保険事務組合とは、中小企業の事業主に代わって、労働保険(労災保険・雇用保険)の手続きを行う団体です。
事務組合へ委託すると、概算保険料申告書や年度更新などの手続きを事務組合が代行します。
また、中小事業主が労災保険の特別加入を利用するためには、原則として労働保険事務組合へ事務を委託する必要があります。
なお、事務組合へ委託する場合や事務組合を変更する場合は、それまで使用していた労働保険番号を精算し、新しい労働保険番号で手続きを行います。
労働保険事務組合については、別の記事で詳しく解説します。
4-4 年度更新をするとき
年度更新は、この申告書を使用する代表的な手続きです。
年度更新では、次の二つの手続きを同時に行います。
- 前年度の保険料を確定し、概算保険料との差額を精算する。
- 新年度の概算保険料を申告する。
そのため、他の手続きよりも記入する欄が多くなります。
基本的な書き方は、申告書と一緒に送付される「年度更新申告書の書き方」に詳しく掲載されています。この記事では、その中でも迷いやすいところを中心に説明します。
④ 常時使用労働者数
「④ 常時使用労働者数」は、保険料を計算するための人数ではありません。
各月末日(賃金締切日を定めている場合は、その締切日現在)の常時使用労働者数を合計し、12で割った人数を記入します。
詳しい計算方法は、厚生労働省の「常時使用労働者数・雇用保険被保険者数計算要領」に記載されています。
⑤ 雇用保険被保険者数
「⑤ 雇用保険被保険者数」も、「④ 常時使用労働者数」と同じ考え方で、各月の人数から月平均を計算して記入します。詳しい計算方法は「④」と同じです。
⑧ 保険料算定基礎額
ここには、前年度(4月1日から翌年3月31日まで)に実際に支払った賃金総額を記入します。
概算ではなく、実績の賃金総額を記入することがポイントです。
⑫ 保険料算定基礎額の見込額
ここには、新年度(4月1日から翌年3月31日まで)に支払う予定の賃金総額を見込んで記入します。
前年度の賃金総額と比べて、見込額が2分の1以上2倍以下であれば、前年度の賃金総額をそのまま見込額として使用できます。大きく増減する場合だけ、新しい見込額を記入します。
その他の欄
このほかの欄は、保険料を計算すると自動的に決まる項目や、前回申告した内容を転記する項目がほとんどです。
記入例や「年度更新申告書の書き方」を参考に記入してください。
5.申告書はどこへ提出する?
申告書の提出と保険料の納付は、同時に行う方法と、別々に行う方法があります。
金融機関で申告と納付をする場合
申告内容に間違いがなく、そのまま保険料を納付する場合は、3枚1組の申告書を切り離さずに金融機関へ持っていきます。
金融機関では、申告書を受け付けるとともに保険料を納付します。
労働基準監督署などへ申告書を提出する場合
申告書の内容に不安がある場合などは、先に労働基準監督署や労働局へ提出し、内容を確認してもらうこともできます。
この場合は、納付に使用する部分を切り離して返してもらい、その納付書を金融機関へ持参して保険料を納付します。
提出先と納付先が異なるだけで、納付する保険料や手続きの内容は変わりません。
電子申請を行う場合
電子申請を利用すれば、窓口へ行かなくても申請できます。
電子申請を行う場合は、厚生労働省が公開している「e-Gov電子申請利用マニュアルの紹介」をご利用ください。
「労働保険保険関係成立届」や「労働保険概算保険料申告」の操作マニュアルが公開されています。
6.納付したら領収証書を保管する
金融機関で保険料を納付すると、納付書のうち「領収証書」が返されます。
納付したことを確認できる書類ですので、申告書の控えなどと一緒に保管しておきます。
まとめ
「概算・増加概算・確定保険料申告書」は、名前も長く、記入欄も多いため、最初は複雑に見えます。
しかし、基本となる考え方は、
概算で先に納める
↓
実際の賃金が確定する
↓
確定保険料を計算して精算する
というものです。
まずは、自分がどのケースに当てはまるのかを確認し、そのケースに応じて記入すると迷いにくくなります。
基本的な書き方は厚生労働省の記入例に沿って確認し、迷いやすいところだけこの記事を参考にすると、スムーズに記入できるでしょう。


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