労災の実務を実際に担当すると、簡単には判断できないことがたくさん出てきます。事故や病気の状況は一つひとつ違うので、迷うところもそれぞれ違います。
たとえば、
- 通勤途中に寄り道をした場合、どこまで通勤災害になるのか
- 電車代をもらいながら、自転車通勤して事故に遭ったら労災になるのか
- 休業補償の平均賃金はどう計算するのか。四捨五入していいのか
- どんな病気が業務上の疾病になるのか
- どんな場合に労災保険給付が支給されないのか
調べれば、それぞれについて「この場合はこう扱う」という具体的な取扱いを見つけることができます。
個別の取扱いを知ることも必要ですが、まず制度全体の考え方を理解することがもっと大切だと思います。
ところが、労災について調べていると、いろいろな法令やルールが出てきます。
労働基準法、労災保険法、施行令、施行規則、告示、通達、認定基準……。
どんな関係なのか、よくわかりません。
そこでこの記事では、労災に関係する法律や規則がそれぞれ何を決めているのか、その全体像を整理してみます。
制度全体の考え方を理解することで、個別のケースも理解しやすくなるのではないかと思います。
労災の出発点は「労働者」と「使用者」
「労働者が仕事が原因でケガをすると、使用者にはそのケガを補償する責任がある」
このように考えると、労災の仕組みを理解しやすくなります。
では、ここでいう「労働者」とは誰でしょうか。また、「使用者」とは誰でしょうか。
まず、労働基準法で定められている「労働者」と「使用者」を確認します。
労働者とは
労働基準法第9条では、労働者を次のように定めています。
「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」
つまり、会社などに使用され、その対価として賃金を受け取って働く人が、労働基準法上の「労働者」です。一般的には、雇用契約で働く人です。
ただし、労働者に当たるかどうかは、契約の名称だけで決まるわけではありません。
発注者から仕事のやり方について具体的な指示を受け、勤務時間や勤務場所を拘束され、仕事を断る自由もほとんどない、といった実態があれば、契約の名称にかかわらず労働基準法第9条の「労働者」に該当する可能性があります。
ただ、ここでは細かな労働者性の判断には踏み込まず、労働基準法は、まず労働者と使用者の関係を定めているというところを押さえておきます。
使用者とは
一方、労働基準法第10条では、「使用者」について定めています。
使用者というと会社の社長や事業主を思い浮かべますが、労働基準法ではそれだけではありません。
事業主のほか、事業の経営担当者や、労働者に関する事項について事業主のために行為する者も使用者に含まれます。
ここでも細かな判断には踏み込みません。
大切なのは、労働基準法には「労働者」と「使用者」という二つの立場があり、その関係についてさまざまなルールが定められているということです。
仕事が原因で被災した労働者を使用者が補償する
では、その労働者が仕事によってケガをしたり、病気になったりしたらどうなるのでしょうか。
ここで出てくるのが、労働基準法第75条以下の「災害補償」です。
第75条では、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかった場合、使用者は必要な療養を行うか、その費用を負担しなければならないと定めています。
さらに、仕事を休んだ場合の休業補償、障害が残った場合の障害補償、死亡した場合の遺族補償などについても、労働基準法に定められています。
つまり、労災について考えるときの出発点には、
という関係があります。
労災では「療養補償」「休業補償」「障害補償」など、「補償」という言葉が使われます。
似た言葉に「保障」「保証」がありますが、意味は少し違います。
補償
損失や損害などを埋め合わせることです。
労働者が仕事によってケガをして働けなくなった場合など、その損失を補うという意味で「休業補償」「障害補償」などと使われます。
保障
権利や生活、安全などを守り、確保することです。
「社会保障」「生活保障」「安全保障」などと使われます。
保証
間違いないと請け合ったり、責任を引き受けたりすることです。
「品質保証」「保証人」「債務保証」などと使われます。
したがって、労災で使われるのは基本的に「補償」です。
労働基準法は使用者の災害補償を定めている
では、労働者がケガなどをした場合、使用者にはどんな補償の義務があるのでしょうか。
労働基準法では、第75条以下で「災害補償」について定めています。
主なものを整理すると、次のようになります。
| 条文 | 補償 | 内容 |
|---|---|---|
| 第75条 | 療養補償 | 業務上のケガや病気について療養させる、または療養費を負担する |
| 第76条 | 休業補償 | 療養のため働けず賃金を受けられない場合に補償する |
| 第77条 | 障害補償 | 治った後に障害が残った場合に補償する |
| 第79条 | 遺族補償 | 業務上死亡した場合に遺族を補償する |
| 第80条 | 葬祭料 | 業務上死亡した場合に葬祭料を支払う |
ここで押さえておきたいのは、業務災害については、「労災保険から給付される」という仕組みだけで成り立っているわけではないということです。
その前提として、労働基準法による使用者の災害補償義務があります。
そのことがよくわかるのが、休業した最初の3日間です。
業務災害によって仕事を休んでも、労災保険の休業補償給付が支給されるのは4日目からです。
しかし、最初の3日間が補償されないわけではありません。
この3日間については、労働基準法第76条に基づき、使用者が平均賃金の60%の休業補償を行います。
つまり、
という順番で考えると、労働基準法と労災保険法の関係が理解しやすくなります。
次に、この使用者の災害補償と労災保険が、法律上どのようにつながっているのかを確認します。
使用者の災害補償を保険制度で支えるのが労災保険
仕事が原因で労働者がケガをしたり病気になったりした場合、使用者には労働基準法による災害補償の義務があります。
しかし、大きな事故や重い障害、死亡などが発生すれば、必要となる補償は大きなものになります。
使用者の支払能力によって補償が左右されるようでは、被災した労働者やその遺族も困ります。
ここは法律にそのまま書かれているわけではありませんが、「使用者に災害補償の義務を負わせるだけでなく、それを保険制度によって支える仕組みを用意したもの」と理解しています。
そこで、労災保険という仕組みを見てみましょう。
労災保険という仕組み
労災保険について定めているのが、正式には「労働者災害補償保険法」という法律です。
労災保険法第1条では、業務上の事由などによる労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して、迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行うことなどを制度の目的としています。
また、第2条では、
労働者災害補償保険は、政府が、これを管掌する。
と定めています。
そして労災保険は、事業主が加入するかどうかを自由に選ぶ保険ではありません。
原則として、労働者を一人でも使用する事業は労災保険の適用事業となり、法律上当然に保険関係が成立します。
保険料は事業主が負担し、労災が発生した場合には、労災保険から被災した労働者や遺族に保険給付が行われます。
こうして見ると、
使用者に災害補償の義務がある
事業主が保険料を負担して保険制度で支える
政府から被災労働者や遺族に保険給付が行われる
という大きな仕組みが見えてきます。
労働基準法と労災保険法はどう関係するのか
では、労働基準法で定められた使用者の災害補償と、労災保険から行われる保険給付は、法律上どのようにつながっているのでしょうか。
この関係がよくわかるのが、労災保険法第12条の8です。
第12条の8第1項では、業務災害に関する保険給付として、次の給付を定めています。
療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金、介護補償給付です。
そして第2項では、傷病補償年金と介護補償給付を除くこれらの給付について、労働基準法第75条から第77条、第79条、第80条に規定する「災害補償の事由が生じた場合」に行うと定めています。
つまり、
第75条 療養補償
第76条 休業補償
第77条 障害補償
第79条 遺族補償
第80条 葬祭料
療養補償給付
休業補償給付
障害補償給付
遺族補償給付
葬祭料……
という形で、二つの法律がつながっています。
まず労働基準法に使用者の災害補償があり、それを受けて労災保険法による保険給付がある。
この順番で考えると、二つの法律の役割が見えてきます。
労災保険から給付されると使用者の責任はどうなる?
では、労災保険から給付が行われた場合、労働基準法で定められた使用者の災害補償義務はどうなるのでしょうか。
これについては、労働基準法第84条に明確な規定があります。
労災保険法によって、労働基準法上の災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合には、使用者はその災害補償の責任を免れることになっています。
つまり、
という関係です。
この仕組みを知ると、先ほど説明した休業の最初の3日間についても理解しやすくなります。
業務災害の場合、労災保険の休業補償給付が支給されるのは4日目からです。
しかし、最初の3日間について使用者の責任までなくなるわけではありません。労働基準法第76条に基づく休業補償として、使用者が平均賃金の60%を補償します。
「労災だから、すべて労災保険から支払われる」というわけではなく、
「業務災害については、まず使用者に災害補償責任があり、その災害補償を労災保険が保険給付によって支える」
という仕組みです。
「業務上」とは具体的に何なのか
ここまで「業務上のケガや病気」という言葉を使ってきました。
では、何をもって「業務上」と判断するのでしょうか。
ケガの場合は、比較的わかりやすいことがあります。
たとえば、工場で作業中に機械に手を挟まれた、建設現場で作業中に足場から転落した、といった場合です。
いつ、どこで、何をしていてケガをしたのかを確認することで、業務と災害との関係を考えることができます。
一方、病気の場合はもう少し複雑です。
腰痛になった。脳梗塞を発症した。精神障害を発病した。
病気そのものは、仕事をしていない人にも起こります。そのため、病気になったという事実だけでは、それが仕事によるものなのかはわかりません。
では、どのような病気を「業務上の疾病」とするのでしょうか。
ここで、法律から具体的なルールをたどってみます。
「業務上の疾病」なら施行規則へ進む
労働基準法第75条第1項では、労働者が「業務上負傷し、又は疾病にかかった場合」について、使用者の療養補償を定めています。
しかし、これだけでは、どのような疾病が「業務上の疾病」に当たるのかまではわかりません。
そこで第75条第2項を見ると、
前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。
とあります。
つまり、労働基準法だけを読んでも答えは出てきません。
法律自身が、「具体的な範囲は厚生労働省令で定める」と、その先を示しています。
そこで次に、厚生労働省令である「労働基準法施行規則」を見ます。
労働基準法施行規則第35条では、
法第七十五条第二項の規定による業務上の疾病は、別表第一の二に掲げる疾病とする。
と定めています。
今度は「別表第1の2」を見ることになります。
別表第1の2には、業務上の負傷に起因する疾病、物理的因子による疾病、身体に過度の負担のかかる作業による疾病、化学物質等による疾病など、業務上の疾病が定められています。
ここまでを整理すると、次のようになります。
業務上の疾病の範囲は厚生労働省令で定める
別表第1の2に掲げる疾病とする
業務上の疾病の具体的な範囲を定める
法律から施行規則、さらに別表へと根拠をたどることで、「業務上の疾病」の具体的な内容が見えてきます。
しかし、実務ではこれで終わりではありません。
たとえば、脳・心臓疾患や精神障害について、別表に該当する疾病だからといって、それだけで個々のケースが労災になると決まるわけではありません。
実際に仕事が原因で発症したものなのかを判断するためには、労働時間や業務による負荷など、さらに具体的な基準が必要になります。
そこで、認定基準や通達などを確認していくことになります。
つまり、
というように、必要に応じて根拠をたどっていきます。
この記事では、個々の疾病の認定基準までは説明しません。
ここで押さえておきたいのは、法律に書かれている「業務上」という一つの言葉についても、その具体的な内容を調べていくと、施行規則や別表、さらに認定基準や通達へとつながっていくということです。
実際の実務では、何か疑問があれば、まず厚生労働省や労働局のパンフレット、ホームページ、手引きなどを確認することが多いと思います。そこには、実務で必要となる具体的な取扱いが整理されています。
ただ、「なぜ、このような取扱いになるのだろう」「その根拠はどこにあるのだろう」と考えたときには、その先にある法律や施行規則、通達などを確認することになります。
今回は、普段の実務ではあまり意識することのない、反対側から見てみました。
普段見ているパンフレットやホームページの説明が、どのような法令や基準から出てきているのか。その流れを知っておくと、個別の取扱いについて「なぜそうなるのか」を理解しやすくなります。
労災保険の対象は「使用者の災害補償」から広がった
ここまで、業務上のケガや病気について、
という基本的な仕組みを見てきました。
しかし、現在の労災保険は、使用者の災害補償責任を保険制度で支えるだけの制度ではありません。
制度ができた後、労働者を保護する範囲は少しずつ広げられてきました。
時間を追って見てみましょう。
もともとの業務災害
労災保険制度は1947年(昭和22年)に始まりました。
これまで見てきたように、仕事が原因で労働者がケガをしたり病気になったりすれば、労働基準法によって使用者に災害補償の義務が生じます。
そして、その災害補償を保険制度によって支えるのが、労災保険の基本的な仕組みです。
そのため、業務災害に対する給付には、
療養補償給付
休業補償給付
障害補償給付
遺族補償給付
というように、「補償」という言葉が使われています。現在の労災保険法でも、業務災害についてこれらの名称が使われています。
通勤災害が加わった
その後、労災保険による保護の範囲は、仕事そのものによる災害だけではなくなりました。
1973年(昭和48年)の労災保険法改正によって、通勤災害保護制度が設けられ、同年12月1日から施行されました。
通勤中の事故は、仕事と関係しているとはいっても、基本的には使用者の業務上の災害とは別のものです。
現在の労災保険法でも「通勤」を定義する際に、「業務の性質を有するものを除く」としています。「業務の性質を有するもの」は、通勤災害ではなく業務災害として扱われます。
それでも、仕事に行くため、あるいは仕事から帰るための移動中に被災することがあります。
そこで労災保険では、業務災害とは別に「通勤災害」という仕組みを設け、一定の要件を満たす通勤中のケガなどについても保険給付を行うようになりました。
この違いは、給付の名前にも現れています。
業務災害の場合は、
休業補償給付
ですが、通勤災害の場合は、
休業給付
です。
「補償」という言葉がありません。
療養についても、
業務災害 → 療養補償給付
通勤災害 → 療養給付
となっています。
これは、業務災害が労働基準法上の使用者の災害補償責任とつながっているのに対して、通勤災害は、その使用者の災害補償責任とは別に労災保険によって保護されていることを考えると理解しやすくなります。
さらに複数業務要因災害が加わった
さらに2020年(令和2年)には、複数の事業で働く人について労災保険制度が改正され、同年9月1日から複数業務要因災害に関する制度が始まりました。
たとえば、二つの会社で働いている人がいたとします。
それぞれの会社での仕事の負荷だけを見れば、仕事と病気との因果関係を認めるほどではない。
しかし、二つの仕事の負荷を合わせて評価すると、仕事と病気との因果関係が認められることがあります。
従来は事業ごとに業務上の負荷を評価していたため、このような場合には保険給付を受けられないことがありました。
そこで、複数の事業での業務上の負荷を総合的に評価して因果関係が認められる場合に、「複数業務要因災害」として保険給付を行う仕組みが設けられました。厚生労働省の施行通達も、この場合にはそれぞれの就業先の負荷だけでは因果関係が認められないため、いずれの就業先も労働基準法上の災害補償責任を負わないと明記しています。
つまり、
ある就業先での業務によって業務上と認められる災害
→ 労働基準法上の災害補償と労災保険
通勤による災害
→ 使用者の災害補償責任とは別に労災保険で保護
一つの事業だけでは認められないが、複数の仕事の負荷を総合すると認められる
→ 労災保険で保護
というように、労災保険による保護の範囲は広がってきました。
現在の労災保険法第7条も、業務災害、複数業務要因災害、通勤災害をそれぞれ区別して定めています。
こうして歴史を追ってみると、現在の労災保険は、労働基準法上の使用者の災害補償を保険で支える仕組みを出発点としながら、それだけでは保護できない災害にも対象を広げてきた制度と見ることができます。
法律・政令・省令・通達は何を決めているのか
ここまで見てきたように、労災について調べていると、法律だけでなく、施行令、施行規則、告示、通達、認定基準など、さまざまなものが出てきます。
名前が似ているので最初はわかりにくいのですが、それぞれ役割が違います。
労災に関係する主な法令などを整理すると、次のようになります。
| 法令など | 主な役割 |
|---|---|
| 労働基準法 | 使用者の災害補償責任などの基本的なルールを定める |
| 労働基準法施行規則 | 労働基準法から委任された事項などを具体化する |
| 労災保険法 | 労災保険の目的、保険給付、仕組みなどを定める |
| 労災保険法施行令 | 労災保険法から政令に委任された事項を定める |
| 労災保険法施行規則 | 保険給付や請求手続など、法律から委任された事項を具体化する |
| 特別支給金支給規則 | 休業特別支給金などの特別支給金について定める |
| 告示・通達・認定基準など | 法令に基づく具体的な基準や、行政実務での取扱いなどを示す |
大きく見ると、まず国会が制定する法律があります。
法律ですべての細かなルールまで定めるのではなく、法律が「政令で定める」「厚生労働省令で定める」などとして、具体的な事項を委ねていることがあります。
政令は内閣が制定し、省令は各省の大臣が制定します。
先ほど見た業務上疾病が、そのわかりやすい例です。
「厚生労働省令で定める」
「別表第1の2に掲げる疾病とする」
業務上疾病の範囲を具体化
という流れになっていました。
さらに、実際のケースについて判断するためには、法令だけでは足りないことがあります。
たとえば、脳・心臓疾患や精神障害が業務によるものかを判断するためには、具体的な認定基準があります。
また、厚生労働省から労働局や労働基準監督署などに対して、法令の解釈や事務の取扱いを示す通達もあります。
ここで注意したいのは、法律、政令、省令と、通達や認定基準は同じものではないということです。
法律、政令、省令は「法令」です。
一方、通達は行政機関内部に対して法令の解釈や運用方針などを示すもので、法律や省令そのものではありません。認定基準についても、法令を実際の事案に適用して労災認定を行うための具体的な判断基準として使われています。
労災の実務では、こうした通達や認定基準が非常に重要です。
実際に私たちが目にする厚生労働省や労働局のパンフレット、ホームページ、手引きなどは、こうした法令や基準をもとに、必要な手続きや取扱いをわかりやすく整理したものです。
したがって、普段の実務では、
パンフレット・ホームページ・手引き ➡️ 具体的な手続きや取扱いを確認
という使い方で十分なことも多いでしょう。
しかし、「なぜこの取扱いになるのだろう」「根拠はどこにあるのだろう」と思ったときには、
パンフレット・手引きなど ⬅️ 通達・認定基準など ⬅️ 施行令・施行規則 ⬅️ 法律
というように、根拠をさかのぼって確認することができます。
逆に、今回の記事では、この流れを上から見てきました。
法律 ➡️ 政令・省令 ➡️ 告示・通達・認定基準など ➡️ パンフレット・手引きなど ➡️ 実務での具体的な取扱い
普段は下の方を見て仕事をしています。
でも、ときどき上までたどってみると、普段行っている手続きや判断が、どのような法律や考え方から出てきているのかが見えてきます。
実務で迷ったら根拠を上までたどってみる
この記事を書こうと思ったのは、労災の実務をしていると、「これはどう扱うのだろう」と迷うことがいろいろ出てくるからです。
通常は、厚生労働省や労働局のホームページ、パンフレット、手引きなどを調べれば、具体的な取扱いが説明されています。
でも、ときどき、
「なぜ、そうなるのだろう」
「その根拠はどこにあるのだろう」
と思うことがあります。
そんなときは、普段見ている具体的な取扱いから、法律まで根拠をさかのぼってみると、制度の仕組みが見えてきます。
例:通勤途中に寄り道したらどうなる?
たとえば、通勤途中に寄り道をした場合です。
「通勤途中にコンビニに寄ったら労災にならない」
といった説明を目にすることがあります。
しかし、これだけを覚えてしまうと、
「コンビニなら全部だめなの?」
「駅の売店なら?」
「帰宅途中に病院へ行った場合は?」
と、少し条件が変わっただけでわからなくなります。
そこで、「なぜ?」と根拠をたどってみます。
まず、労災保険法第7条では、労災保険における「通勤」が定義されています。
そして同条では、通勤経路を逸脱したり、移動を中断したりした場合についても定めています。
ただし、逸脱や中断があれば何でも通勤ではなくなる、という単純な仕組みではありません。日常生活上必要な行為で、厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度の逸脱・中断については、その後の移動が再び通勤として扱われる場合があります。
そこで今度は、労災保険法施行規則を確認します。
さらに、実際にどのような行為が逸脱・中断になるのか、具体的なケースを確認したければ、通達や厚生労働省の資料などを見ていきます。
つまり、
通勤途中に寄り道したらどうなる?
「通勤」とは何か
「逸脱・中断」とは何か
日常生活上必要な行為などを具体化
具体的なケースでの取扱い
というように、根拠をたどることができます。
「コンビニに寄ったらどうなる」という事例だけを覚えるより、逸脱・中断というルールを知っておけば、別のケースに出会ったときにも考えやすくなります。
例:平均賃金はどう計算する?
もう一つ、休業補償などで使われる「平均賃金」を考えてみます。
実務では、計算方法を手引きなどで確認して、そのとおり計算すれば処理できます。
ところが、実際に計算していると、
「なぜ3か月なのだろう」
「どの賃金を入れるのだろう」
「端数はどこで処理するのだろう」
といった疑問が出てきます。
平均賃金については、まず労働基準法第12条に定義と基本的な計算方法があります。
そこから、必要に応じて施行規則や通達などを確認していきます。
平均賃金の定義・基本的な計算方法
法律から委任された事項などを具体化
具体的な計算や取扱いを確認
ここでは平均賃金の具体的な計算方法までは扱いませんが、このように根拠をたどってみると、「そう計算することになっている」というだけではなく、どこまでが法律に書かれていて、どこからが施行規則や具体的な取扱いなのかも見えてきます。
実務では、まずパンフレットや手引きで答えを確認する。
そして、「なぜそうなるのだろう」と思ったときには、その根拠を一段ずつ上までたどってみる。
そうすると、個別の取扱いを覚えるだけではなく、その取扱いがどこから出てきたのかがわかるようになります。
まとめ|「答え」だけでなく「根拠」を確認する
労災の実務では、まず「この場合はこうする」という具体的な取扱いを知ることが必要です。
実際の仕事では、厚生労働省や労働局のホームページ、パンフレット、手引きなどを確認すれば、必要な手続きや判断の仕方がわかることも多いでしょう。
ただ、その取扱いにも根拠があります。
法律に書かれているのか。
施行令や施行規則で具体的に定められているのか。
それとも、告示や通達、認定基準などで具体的な判断方法が示されているのか。
「この場合はこうする」という答えだけを覚えるのではなく、ときどき、
「なぜ、そうなるのだろう」
と、その根拠までさかのぼってみると、制度そのものが少しずつ見えてきます。
今回整理してみて、労災の基本には、
という仕組みがあることがわかりました。
そして、その後、労災保険は通勤災害や複数業務要因災害にも対象を広げ、使用者の災害補償責任だけでは説明できない制度へと発展してきました。
さらに、「業務上とは何か」「どのような病気が対象になるのか」「通勤の逸脱・中断をどう判断するのか」と具体的に調べていけば、法律から施行令・施行規則、さらに通達や認定基準へとつながっていきます。
普段の実務では、そこまでさかのぼる必要はないかもしれません。
でも、判断に迷ったときや、「なぜ?」と思ったときに、どこをたどれば根拠にたどり着けるのかを知っていることは役に立ちます。
今回は、そのための地図として、労災に関係する法令の全体像を整理してみました。


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